2024年の果樹園便り
皆様、お変わりありませんでしょうか。今年もまた収穫の秋が巡ってきました。朝夕の冷え込みと共に、果樹園の林檎は赤く色付き始め、葉も緑から黄色へと衣替えの最中です。
昨年は、当園始まって以来の前年比八割減という不作となり、本当に多くの皆様にご迷惑をおかけする事となってしまいました。暖冬の影響で花が早く咲き、そこに遅霜は降って花が凍り、枯れ落ちてしまったのです。そんな中でも、当園をご心配してくださる皆様からの「負けずに頑張って」「また来年楽しみにしているよ」の声を励みに、一年間頑張る事が出来ました。今年の会津木の実園には、たわわに実った林檎が、収穫を今か今かと待ち望んでいる景色が広がっています。
さて、昨年より当園に研修生として飛澤君が来ております。県外から単身で林檎農家を目指し、当園にやってきた彼は、二年後の会津坂下町での就農・開園を目標に、奮闘中です。「人に伝える」という事は、伝える側にとっても学ぶ事が多いものです。この一年、様々な事を調べ、多くの方々からお話を聞き、県内外への視察や研修を重ねてきました。その都度、新しい技術や品種、それぞれの方の想いを学ぶ事で「今後の栽培にどう生かせるのだろうか」と考える日々を送っています。
そんな中、ふと思い出すのは当園の初代である亡くなった祖父の事です。戦争で足を負傷した祖父は、まだ機械化のされていない当時の稲作をするのは困難だったそうです。そこで、今から六十年前、視察に行った先で林檎に出会い、栽培することを決意したそうです。今、考えると、米価の高かった時代に収穫まで何年もかかる林檎を植えるのは大変な苦労だったと思います。しかし、幼かった私と弟を膝に乗せ、林檎の話をする祖父は、苦労などまるでなかった様にいつも大きな笑顔でした。「無袋栽培」「樹上完熟」「葉とらず林檎」といった当園の信念でもある「見た目よりも美味しさにこだわる」栽培方法は、今でこそ多くの林檎農家さんが行っています。しかし、その当時は、袋をかけた物や葉を取った物よりも見た目が劣る事から、販売するのはとても大変だったといいます。沢山のお客様の「美味しい」の声に支えられ、今こうして三代目となる会津木の実園を続けられているのだと深く感じています。
あの膝の上から四十年余り。祖父が植えた林檎の樹は、父が植えた樹、そして私が植えた樹と共に、まだなお同じ場所で、実をつけ続けています。11月下旬。間もなく当園の収穫が始まります。